悪魔の章 020.琴子の初陣(一)

「……当然ただのポーカーじゃないんだよな?」
「そうなります。普通のポーカーと比べて、駆け引きの緊張感は別物と言っていいでしょう。なにせ負けたら自殺を強制される、とっても危ないポーカーなんですから」

クスリと笑い、琴子は事の顛末を語り始めた。

◆◇◆

少し時間は遡る。

「お前が先に行け」

独り赤の扉に立つ琴子に、壮士がぶっきらぼうに言う。
琴子は無意識に口元を緩めながら、兄の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。

「ふふ」

暖かな気持ちに胸を満たされ、それと同じだけ、心臓を握られたような鈍い痛みを覚えた。
壮士と出会って以来、もう何度経験したか分からない。
兄の声は、琴子を置き去りにした、あの憎らしくも愛おしい人とよく似ている。
彼の奏でる音が、これまで幾度となく琴子に哀愁と喜びをもたらしてきた。

(先に行け、ですか……)

だから琴子は、それが的外れだと自覚しつつも、壮士を一馬に見立てて悪態をつく。

(貴方様は迎えに来てくれなかったくせに)

それでも構わない。
一馬が来てくれないなら、こちらから迎えに行くまでだ。
一馬がどう思っていようと関係ない。
琴子が一馬を愛している。欲しいものは自らの力で勝ち取る性分だ。

(それに一馬様と違って)

壮士は愛してくれている。
とはいえ、壮士はやっぱり一馬の弟だ。兄弟揃って分かりやすく愛を口にしてくれない。壮士なんて未だに妹と認めてくれないのだから相当ひねくれている。
もし妹認定しないまま琴子が死んだとしたら、さぞ壮士は悔やむことになるだろう。
どうせ琴子を好きで好きでたまらないのだから、さっさと認めてしまえばいいのにと思う。

(まあ、認めたくないなら、それでもいいですけど)

今ではそう思えるようになった。
別に琴子は妹の称号が欲しいのではない。いやもちろん、くれるなら欲しいけれど。とにかく琴子はただ、妹みたく壮士に愛してほしいだけなのだ。
そういう意味では満足だ。
だってこの口下手な兄は実感させてくれる。私は愛されているなと。

「…………」

不安げな眼差しでジッと見つめてくる壮士。
愛は口にしてくれないくせに、琴子を案じていることは隠そうともしない。
そんな壮士のひねくれた性格が可愛らしくて、嬉しくて、なにより愛おしかった。

「では後ほど」

琴子は壮士に倣《なら》い、ぶっきらぼうに返して赤の扉をくぐる。
何か気の利いたセリフでも返そうかと思ったが、やめにした。

(ごめんなさい、お兄様。私は欲深い女なのです)

そうした方が、兄の心配はかさ増しされるに違いない。
そして増量された分だけ、兄はもっともっと、琴子を愛してくれるはずだから。

◆◇◆

赤の部屋に踏み入った直後、琴子は持ちうる全神経を張り巡らせた。
その場で立ち止まり、ホルスターに手を掛け、映る景色に眼球を巡らせる。と、部屋の中央に立っていた女がひとり、ゆっくりとした足取りでこちらに近づいて来た。

「へぇ……、ちょっと見直したよ。根性あるじゃないか、円成寺」

ニタニタと愉しげに嗤う神威に、琴子は微笑で応じる。

「他ならぬカムイさんのお招きです。先ほどの件のお詫びというわけではありませんが、ご要望に応じ参上しました」
「そっかそっか、せいぜい死なないようにがんばれよ」
「無論です。もっともカムイさんが――」
「心配すんなって」

琴子の言葉を遮り、神威はそっとこちらの肩に触れて囁きかける。

「……カムはちゃーんと、ちゅーりつにジャッジするから」
「ありがとうございます。神《ママ》の期待を裏切らぬようお勤めください」

ギョロリと剥いた神威の目を、細めた目で見つめ返す琴子。
皮肉を返されたことに気を良くしたのか、神威はより鋭角に口の端を持ち上げると、琴子に向かって手を差し出し、

「武器を渡せ。銃やナイフだけじゃなく、武器になるようなモンぜんぶだ」
「なぜ?」
「理由は二つ。ゲームに必要ないこと。悪用させないため。いじょー」
「わかりました」

そう素直に応じ、琴子はホルスターを外していく。
正直琴子としては、武装解除させられる危機感以上に、安堵する気持ちの方が強かった。

白色に満たされたこの部屋で異彩を放つ存在。
部屋の中央に鎮座する緑色のテーブルからして、赤の部屋で行われるゲームは恐らくカードゲームであろうと予想していた。
神威が口にした理由は予想を裏付けるものだ。
ならば武器を奪われるとはいえ、肉弾戦で争うわけではないのだろう。正直その手の闘いなら降参も辞さない覚悟だったが、そうでないなら勝ちの目は十分にある。

一方で、気掛かりもあった。
椅子に座っている対戦相手となるであろう女。

(……やはり赤は敵方のテリトリーか)

琴子に強い警戒感を抱かせた理由は二つある。
一つは、琴子が入室する以前に相手が待ち構えていたこと。もう一つは、琴子が入室した直後、女と神威が何やら会話を交わしていたことだ。
二人の空気は和やかなものだった。
勿論、二人が何を話していたのかは知る由もない。が、その様から、二人は気安く話せる程度の間柄にあると推察される。事前にゲームに関する談合をしていた可能性も否定できない。
ともあれ、対戦相手が気負っていないことは確かだ。どこの誰だが知らないが、命のやり取りに自然体で臨めるというのは、それだけで琴子に危機感を抱かせる。

(始まる前から後手というのが気に入りませんが)

赤に挑む以上、この程度のアゲインストは許容せねばなるまい。
琴子はボディチェックを受けたのち、能面のような表情で対戦相手の前に立った。

「はじめまして。円成寺琴子と申します」

女はゆったりと背もたれに身体を預けた体勢のまま、かすかに片眉を持ち上げはしたが、口を開く素振りを見せない。

「…………」

背中まで伸びた深い栗色の髪の大柄な女だ。座っているので正確なところは判らないが、170センチを越える長身と思われる。
挑戦的な吊目も相まって140台の琴子にはかなり威圧的に映る。が、面差しはどこか品を感じさせる美形だ。
年の頃は二十代なかばといったところだろうか。
カーキ色のパンツに、やや露出の多い白のカットソーという出で立ちは、普段着と称して差し支えない。物々しい姿の琴子と対象的だ。

静かに睨み合う二人に、神威が割って入る。

「んじゃー、面子も揃ったことだし、ゲームはじめよっか」
「待ってください」

神威を制し、琴子は椅子に浅く腰掛けると、緑のフェルトが貼られたテーブルに両肘を立て、それから手の上に自らの顎を乗せた。
身長差の関係で仰ぎ見るような格好となった琴子は女の瞳を覗き込み、

「円成寺琴子です。貴女のお名前は?」
「面白い子ね」

名乗りにこだわる琴子が琴線に触れたのか、女は愛でるように目を細め、

「自己紹介に意味がある? もう直ぐ貴女は死ぬのに?」
「名前も知らぬ相手を殺しては寝覚めが悪いでしょう?」

馬鹿を言うな、死ぬのはお前だと、皮肉に皮肉を返す琴子。
女は軽く目を見開き、それから愉しげに薄くルージュの引かれた唇を横に裂いた。

「はじめまして、円成寺琴子さん。“山田花子”よ」
「あらあら、まあまあ」

聞いた途端、琴子はお返しとばかりに目を見開いてクスクスと嗤う。
山田花子。役所や銀行の申込用紙にもれなく書かれてある見本名だ。
要するに、ややパンチを利かせた偽名といった感じだろう。

「それでは花子さんとお呼びしますが、貴女にお尋ねしたいことがあります」
「気が向いたら答えてあげる」
「花子さんがどのような報酬を得るのか興味があります。なにぶんこれは命懸けのゲームです。投じるリスクに応じた報酬を、神に約束されているのでしょう?」

自称『花子』はふっと鼻を鳴らし、舐めるような眼差しで琴子を眺める。
かたや琴子は、やや高い位置から見聞されながらも、美しい微笑を保った。

「…………」
「ふふ……」

既に勝負は始まっている。
両者は下らない会話と機微を通じて、相手の内側を覗き込もうとしていた。

「金よ」
「なるほど、分かりやすい報酬ですね」
「下世話でしょう?」
「そんなことありません。お金は大切ですからね」
「貴女は何を得るの?」
「大切な人の命です」
「高尚ね」
「そうでしょうか? 私は命を得る為に人を殺めようとしています。高尚な事だとは思えません」
「私なんか金よ? 綺麗な円成寺ちゃんを殺すのに罪悪感を覚えるわ。ほんのちょっぴりだけど」
「まあ、そう結論を急がないでください。殺し合うなんて物騒なことをせずとも、穏便に済ます良い方法があります」

柔らかに言って、琴子はベルトポシェットから一枚の紙を取り出した。
それから琴子はニコニコと微笑みながら、紙をテーブルの中央に押し出し、

「一億の小切手です」
「…………」
「裏書きも済ませてありますので、銀行に持っていけば直ぐに現金化できます。花子さんがここで降りてくださるなら差し上げましょう」
「……本物みたいね」

小切手を見分する花子を見て、琴子は『小切手の現物が判別できる程度の経験と教養はあるらしい』とあたりをつけつつ、

「どうでしょう。お金で済む話なら、殺し合いをする必要はないと思うのですが」
「百億よ」

花子は小切手を胸の谷間に収めながら嗤う。

「神から貰う報酬は百億。これじゃぜんぜん足りないわ。いま用意できる?」
「できません。仮にできたとしても、そんな大金、貴女にお渡しするつもりはありません」
「交渉決裂ね。取り敢えずこの一億は貰っておくわ。ありがとう」
「…………」

取り返したいならかかってきなさいな、と鼻を鳴らす花子。
琴子は柔和に微笑んだまま、かすかに口の端を持ち上げた。

「いいえ、殴りかかったところでやられてしまうでしょう。ゲームで花子さんを殺して取り返すことにします。……お金は大事ですからね」
「ぷっ! コイツ、いいように金だけ取られてやんのー」

ざまぁ! とこちらを指さして嗤う神威。
琴子はしかし、さして気を悪くした素振りも見せず、

「ちょっと失敗しただけじゃないですか。笑っていないで始めてください」
「カムに命令すんな、アホ円成寺。話の腰折ったのはお前だろうが」

そうでしたっけ? と琴子が小さく肩をすくめて黙り込むと、神威は不満げに舌を打ち、それからカードの束をテーブルの中央に叩きつけるように置いた。

「先に言っとくけど、このゲームに引き分けはない。お前らのどっちかが絶対に死ぬことになる。というか死ぬまで続けるから。そのつもりで」

琴子は元より神の手先を皆殺しにするつもりだ。今さら『必ずどちらかが死ぬ』と言われたところで、特段の感慨を覚えるはずもなかった。
それよりも気になったのは、

「…………」

花子に感情の揺らぎが一切みられなかったことだ。
無論、彼女も相応の覚悟を以ってこの場に臨んでいるはず。
であれば、揺らがなくとも不思議はないが、

(この落ち着きよう。ただ肝が太いだけか、あるいは事前に内容を聞かされていたか。……いいえ、このゲーム自体が出来レースである可能性も)

当然、琴子は神威の中立性を信じていない。
魔阿が便宜を図ってくれたことで裏が取れた。彼女らの中立性に拘束力が伴わないのは確かだ。勿論、魔阿がこちらを騙しているというセンも残るが、それはないだろうと琴子は踏んでいる。
そうなると、琴子は否が応でも『対 花子&神威』という構図のなかで勝ち筋を探さざるを得なくなる。
二対一の闘いだ。
だからこそ、壮士を赤に挑ませるわけにはいかなかった。
現状これといって良い材料が見当たらないが、体力勝負のゲームでなかったことは喜んでいいだろう。

「で、具体的なゲームの内容だけど、二人にはポーカーで戦ってもらう」
「クローズドポーカーですか?」

琴子の言うクローズドポーカーとは、一般的に日本人が思い浮かべるであろう種類のポーカーだ。
実際はクローズ系にも複数の種類が存在するが、代表的な流れはこんな形となる。

1.ディーラーはプレイヤーに1枚ずつカードを伏せて配る。
2.各自に5枚配られた時点でプレイヤーは任意の枚数のチップをベットする。
3.各自が好きな枚数のカードをチェンジしたのち、2回目のベッティングラウンド。
4.カードをオープンし、役の優劣を決する。

日本人なら誰しも一度は経験したことのあるルールだろう。
神威はしかし、首を横に振る。

「いんや、テキサスホールデムだ。ちょこっとアレンジした形だけどね。まあ、二人ともテキサスホールデムくらい知ってるだろうけど、いちおー説明しとくぞー」

カムのお仕事だかんね、と神威は二人の返事を待たずに説明を始めた。

テキサス・ホールデム。
日本人には馴染みが薄いルールだが、世界的にはこちらが主流だ。
国際大会などもこのルールを基本として多数開催されている。

一番の特徴は、自分だけが見える手札と、プレイヤー全員が見える場札(共通カード)の二種類が存在するという点だ。
手札は2枚。場札は5枚。合計7枚を組み合わせて役を作ることになる。
ゲーム開始時、場札の5枚中2枚は伏せられた状態でスタートする。
プレイヤーは手札2枚と、好きな場札3枚を組み合わせても良いし、手札を使わず場札5枚のみで役を作っても構わない。手札を1枚だけ利用するのも可だ。
とにかく7枚のなかで最強の役を目指せば良い。

「んじゃ、例をあげながらゲームの流れを説明するね。まずはカムが場札を裏向きで並べます」

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「次に、二人に2枚の手札を配ります。今回は説明だし、表向きで円成寺にだけ配るけど、実際は自分にしか見えない手札ね」

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「本来は手札を配った段階で1回目のベットラウンドを行うんだけど、今回のルールではこれをスキップする。理由は後で説明するね。というわけで、次に場札を3枚おーぷんします」

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「ざんねん。円成寺は役なしだ。ここで最初のベットラウンドを行います。
取れる行動は三種類。『合わせる』か『上乗せする』か『降りる』だ。片方が降りたら1回戦が決着。二人の賭けるチップの額が同じになったら次のラウンドに進みます。ちな、ベットする順番は設けないから。どっちでも好きに宣言してくれればいいよ」

ベットラウンドのコールは5種類ある。

・フォールド(降りる)
・チェック(なにも賭けずにそのまま回す)
・コール(相手の賭け額に合わせる)
・レイズ(相手の賭け額に上乗せする)
・オールイン(自分のチップをすべて賭ける)

「ベットが無いということは、私と花子さんの両方にブラインドがあるということですか?」
「せいかーい」

賭けられたチップが0枚でスタートする場合、プレイヤー一名が任意の枚数を場にベットしてゲームを開始する。この時に用いるのが『ベット』であり、通常ベットはプレイヤーで持ち回りとなる。
故に、良いカードが来るまで降り続けるという戦略は通用しない。降り続けてもチップは減り続けるのだ。
そして、琴子が指摘した『ブラインド』とは『強制ベッド』を指すもので、

「花子も、円成寺も、参加料としてチップを1枚賭けてもらう。この参加料は1回戦毎に増えていくから注意してね。1回戦目は1枚。2回戦目は2枚。3回戦目は3枚って感じ。参加料を払ってもらう関係で、プリフロップ(共通カードがすべて伏せられた状態でのベット)はスキップするってことだな」
「承知しました」

となれば、長期戦になることはないだろう。
回を重ねる毎に強制ベッドが増えていく。初期に与えられる持ちチップの数にもよるが、どちらかのチップが枯れるまでそう時間は掛からないはずだ。

「ゲームの進行に話を戻すぞ。今のところ円成寺は役なし。ここで円成寺は『チェック(現状維持)』して、花子もチェックしたとする。二人のチップは同額なので次のラウンドに進みます。伏せられている共通カードの4枚目をおーぷん!」

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「4枚目の伏せ札はなーんと、スペードのKでした。役なしだった円成寺の手が『9・10・J・Q・K』のストレートに化けました。調子に乗った円成寺はレイズします。チップを2枚追加して合計3枚。花子はビビってフォールド(降りる)します。これで1回戦目は円成寺の勝ち」

仮にこの場面で花子がコール(相手の賭け額に合わせる)した場合は、最後の共通カードである5枚目が開かれる。さらにここでもチップが同額となった際は、互いの手札を明かし、役の優劣で勝負を決することになる。

「どう? サルでも分かる説明だったろー?」

えっへん、と胸を張る神威。

この様に、テキサスホールデムにはカードチェンジという概念がない。つまりプレイヤーは、自身の作る役に関与できる余地がほとんどないのだ。
関与できるのは、場を進ませるか、降りるかの二択。
故にこのルールは、数あるベットラウンド(チップを賭ける場面)を通じて、いかに相手を降ろさせるかが肝となる。タイミングとチップ。その二つを駆使して相手を諦めさせる――この心理戦こそが、テキサス・ホールデムの醍醐味と言えよう。

また、テキサスホールデムはクローズドポーカーと比べて奥が深く戦略性も高い。海外では分厚い戦術書がいくつも発行されているほどだ。
クローズド系と同じく相手の手札は見えないものの、共通カードの存在があるが故に相手の役をある程度絞り込め、絞り込めるからこそ深い駆け引きを要する。
加えて、このルールの厄介なところは『ベットラウンドを経ることで役が変化する可能性がある』という点だ。

例えば神威が挙げた状況で、花子の手札が『ダイヤA・7』だったとしよう。

trump5

共通カードの4枚目が開かれた時点で琴子は『9・10・J・Q・K』のストレート。対して花子は『役なし』だ。花子が降りれば琴子の勝ちとなる。
しかし仮に花子が突っ張ってコールしたとすると、最後の5枚目がオープンされる。

trump6

5枚目は『ダイヤ5』だった。
4枚目時点で役なしだった花子の手が『フラッシュ』に変化し、琴子のストレートを上回ってしまう。勿論これは一例に過ぎないが、この様にベットラウンドを経ることで逆転が起こりうるのがテキサスホールデムだ。
故に、ある段階で強い手が来たからといって油断はできない。
レイズするのも、相手のレイズにコールするのも簡単ではない。どのタイミングであろうと、ひっくり返される危険をはらむ。

神威の説明を受け、琴子が顎に手を添えて言う。

「カードを開く手順が異なること、ベッドの宣言が自由な点など、多少のアレンジはあるようですが、基本的な流れはテキサスホールデムですね。独自ルールは以上ですか?」
「もういっこだけある。コイツが一番大きなアレンジだ」

神威はニタニタと嗤い、握り拳をテーブルの上に置いた。

「お前たちにはチップの代わりに弾を与える」

緑色のフェルトに残ったのは、金色に輝く一発の弾丸。

「持ち弾は6発だ。ただし、これは相手の弾を奪い合うゲームじゃない。1回戦毎に掛けた弾を精算してもらう」

神威は粘つくような不快な声でそう言って、自らの右手を拳銃の形に変えた。
そうしてルビー色の瞳を持つ少女は、銃口に見立てた人差し指を琴子の眉間に添えて――、

「2発賭けて負けたら2発。オールインしたなら6発。賭けた数の弾丸をリボルバーに込める。負けた奴は一度、引き金を引いてもらう。
なーに、余裕だって。スカったら負けはチャラだ。賭けた弾はリセットされて2回戦に進める。でももし、運悪くアタリを引いちゃったら……」

BAN! と神威はケラケラと嗤ったのだった。

クロ

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