悪魔の章 012.決意のビデオレター(中)
最後の兄妹の日。 壮士と琴子が二人きりで過ごすその日は、過去の例に漏れず楽しい一日となった。 いつも通り壮士がハンドルを握って、琴子が助手席に陣取る。 風の向くまま気の向くまま。兄妹の日はいつだってノ […]
最後の兄妹の日。 壮士と琴子が二人きりで過ごすその日は、過去の例に漏れず楽しい一日となった。 いつも通り壮士がハンドルを握って、琴子が助手席に陣取る。 風の向くまま気の向くまま。兄妹の日はいつだってノ […]
円成寺の別荘から五分ほど歩いた森の中。 壮士はただ独りそこに立ち、自らの存在を周囲に溶け込ませてゆく。 「…………」 瞼を閉じてゆっくりと息を吸う。 鼻腔をくすぐる緑の匂い。 優しく頬を撫でる湿った潮 […]
なっちゃんにストンピングされまくったその日の夜。 夕食を終えたリビングの空気はすこぶる悪かった。 というのも、 「いいかげん機嫌なおせよ」 「フンっ……」 やんわりなだめた壮士に対して、琴子はプイッと […]
グアムにおける、桐山壮士の日常はこうして過ぎてゆく。 毎朝午前6時に起床。玄関で琴子と落ち合い、スローペースで1時間ほどランニングする。帰ってきたらシャワーを浴びて朝食へ。 ここでの食事は円成寺のスタ […]
グアムに着いた翌日の早朝。 奈津に用意してもらったトレーニングウェアに身を包み、壮士はランニングに向かった。 まさかグアムを走ることになるとは想像すらしていなかったが、元より休職した後に取り組もうと考 […]
奈津について行くこと数分。 壮士が連れて来られたのは空港の外れにある駐車場の一角だった。 「これで移動します」 相変わらず表情はのっぺらぼうながらも、少し得意そうな声で奈津が掌を差し向けた先。そこに鎮 […]
ハンバーガーショップのそれから数日が過ぎた十一月末。 「うわ、あっつ……」 旅客ターミナルを抜けるやいなや湿り気を帯びた暑い空気に包まれ、壮士は反射的に顔をしかめた。 晴天にさんさんと輝く陽光がコンク […]
時は再び現在へと舞い戻る。 「悪魔に会わせました」 「そうか、そういうことか……。だからあの時お前は契約を保留したんだな……」 ようやく壮士は、琴子が敷いた二重の欺瞞《ぎまん》に気がついた。 綾部奈津 […]
琴子から連絡があったのは、それから一週間後のことだった。 前回と同じく一馬のマンションを会談場所に、琴子は開口一番こう告げた。 「まずは状況を整理しましょう」 壮士が頷き、続いて悪魔が「どうぞ」と促す […]
今から一週間前。 「選択の時です」 音ひとつない静寂のなか、悪魔が謡《うた》う。 「すべてをお知りになった嬢に問いましょう。このまま安寧に過ごすのか。あるいは壮士殿と共に立ち、神に復讐せんとするのか。 […]