悪魔の章 025.勝者が存在しない第二戦

「そりゃまた意地の悪いゲームだな……」

赤の部屋で行われたゲームの内容を聞き、その悪辣さに腕組みして唸る壮士である。
ポーカーそのものは目眩ましの装飾。ポーカーの勝敗を問わず、最終的に相手を撃ち殺した方の勝ちというこのゲーム。神らしい意地の悪いゲームだ。

「神《あれ》は性悪ですからね、お兄様もより一層注意してください」
「了解。それにしてもやっぱ、初戦はお前のファインプレーだったと思うよ」

もし壮士が赤に挑んでいたなら、きっとルールの本質に気付けなかっただろうし、むしろイカサマだなんだと勘ぐりすぎて、疑心暗鬼の底なし沼にハマっていたかもしれない。
ともあれ初戦は、魔阿の便宜を引き出した琴子の働きが光った。

「もっと褒めてください。わたくしは愛されて伸びるタイプです」

褒めた上にさらに愛せと、なんとも強欲なセリフと吐きつつ、えっへんとデカイ乳を張る参謀殿。

「はいはい、わかったよ」

壮士は思わず呆れの苦笑い。
琴子のそれが単なる軽口だとわかっているし、生い立ちや神のゲームの経験から、この子が人の温もりに飢えていることも知っている。
とはいえ、どうやらこの妹様はただ褒められただけでは満足できないらしい。結局は愛してくれという話なのだろうが、愛情なんて言われて芽生えるものではないということを、いい加減に学ぶべきだ。
事あるごとに『妹にしろ』と要求して来るのも同じ話で、『しろ』言われて『します』と思える話ではない。情《なさ》けとは触れ合いを通じて自然と育まれるものなのだ。
なんてことを壮士は考えつつも、琴子の短い黒髪に手を伸ばし、

「よくやった。頼りにしてる」
「はいっ」

こうして頭を撫でてしまうのだから、壮士はいいように籠絡《ろうらく》されている。反面、『この甘えた素振りも計算かもしれない』なんて疑念を抱かせてしまうところが、琴子の残念な部分である。

「とにかく無事で良かった。それで時計がズレてる件は?」
「あ、はい。この話はまだ続きがあって――」

琴子は思い出したように胸の前で手を打って、勝敗が決した後のことを語り始めた。

◆◇◆

「ところでカムイさん」
「あん?」

奪われていた武器を身につけ終えて、琴子は問う。

「青の部屋の状況を知りたいのですが、把握されていますか?」
「いんや、されてないけど?」
「できないのですか?」
「できるけど、めんどくさいからヤダ」
「お兄様はご無事でしょうか?」

心底嫌そうなしかめっ面を作った神威に対し、琴子はお得意の『都合の悪いことはスルー』スキルを発動。そんな琴子の対応も壮士は慣れたものだが、あいにく神威は初見。神威は琴子のふてぶてしさっぷりに、ルビー色の目を軽く見開きながら言う。

「マジで人のハナシ聞かないヤツだな……。ヤダっつってんだろー」
「そんな意地悪しないでください。仲良くしましょう。ね?」
「ねってお前……、カムのこと殺しといてよくそんなこと言えるな」
「あれは不幸な出来事でした。しかしいつまでも過去に囚われていてはいけません。未来志向で乗り越えていきましょう」
「……お前、マジでぶっ殺すよ?」
「ごめんなさい。口が過ぎました」

神威の纏う空気感が変わりかけたところで、琴子は両手を持ち上げ降参をジェスチャー。距離感を測るための軽口ではあったが、これ以上踏み込むのは流石に危ういとの判断だ。

「いいからもうお前でてけよ。ほら、あのドアから元んとこ帰れるから」
「そう仰らずにどうかお兄様の――」
「しつこいなあ……。桐山のことはドア開けりゃわかるよっ!」

鬱陶しそうに神威が扉を指差したと同時に、琴子の眉がピクリと動いた。

「それはどういうことですか? 青の状況を把握していないのでしょう?」

神威の「開ければ」という言い回しが引っ掛かる。もちろん待機場所で待っていれば、いずれ青で行われたゲームの結果は判明するだろう。壮士が勝てば戻るだろうし、負けたなら戻らない可能性が高い。
だが今、神威は「ドアを開ければわかる」と言った。「待っていれば」、ではなくだ。赤の部屋を退出した直後に青の大勢が判明するとでも言わんばかりだ。
神威が既に青の結果を知っているならともかく、彼女は現時点で青のそれを把握していない。壮士が待機場所に帰っているか不明なのだ。

「あー、うん。そのことね」
「そのこととは?」

聞けば、赤の部屋と青の部屋は、時の流れがゼロに近いレベルで停滞しているとのことだ。
琴子は腕時計を確認しながら重ねて問う。

「ですが、私の時計は今も正常に時を刻み続けています」
「それはアレだよ。外からかんそくしたとき、ほぼ止まってるって意味」

つまり、灰色から赤ないし青に入室した人物の主観時間は維持されるが、灰色から観測した客体時間は遮断されしまうということだ。
例えば壮士を灰色に残し、琴子一人が赤の部屋に入った場合、琴子の主観時間の連続性は保たれるが、壮士から見た赤の部屋の時間はほぼ停止する。結果、琴子が赤の部屋でどれだけ長く時間を過ごそうとも、壮士には琴子が赤に入った直後に戻ってきたように見えてしまうということになる。

「ということは、私とお兄様が待機場所に戻るまでのタイムラグは、それぞれが部屋に入るまでの時間差だけということになるのでしょうか?」
「そゆこと。先に入った方が先に戻る。んで、遅れて入った時間だけあとに入った方が遅れて戻るって感じ。といっても赤と青の時間はほとんど止まってるから、お前が戻ったら桐山もすぐに戻ってくることになる。まあ、桐山が勝ってたらだけどね」
「今回は私が先に部屋に入ったのですが……」
「ならお前が出たあと、1分か2分か待って帰ってこなかったら桐山は死んでるってことになるな」
「なるほど……。何故そのような仕組みになっているのですか?」
「いやいや、そうしないとめちゃんこ時間かかるだろ? ゲームやってんのお前らだけじゃないんだぞ?」

神威の言い分はもっともだ。とはいえ、神と悪魔がほぼ並列に行われているであろう個々のゲームを、どういう手段どういう時間軸で観測しているのかという疑問は残る。他にも引っ掛かる点が無くはないが、そこは超常のすること。考えるだけ無駄なのかもしれない。
ともあれ折角の機会だ。琴子はついでとばかりに情報を取りに行く。

「言われてみれば確かにそうですね。カムイさんとマアさんはプレイヤーの案内役もこなさねばならないのですし、理に適った措置だと思います」
「そーそー、案内するだけでも大変なんだぞー。人数おおいし」
「何人くらい面倒をみておられるのですか?」
「えっと……」

極々自然に尋ねた琴子のそれを受け、恐らく数を口に仕掛けたであろう神威の目つきが鋭いものに変わった。

「アホか。そんなの言うわけないだろ」
「あら残念」

無論、琴子が取りに行ったのは敵方の数。殺すべき人数を把握できれば全体の規模を把握できるし、ザックリとではあるがノルマも設定できる。この勝ち抜き戦をあと何回こなさねばならないのかも、ある程度想定できるだろう。
それだけではない。殺し合いという極限状況下で“ゴール”を意識できないのは過酷だ。そういう意味でもこの情報の価値は著しく高いと言える。が、

(やはり簡単ではありませんね)

たとえプレイヤーにとって価値は高くとも、人数なんて情報、ゲームの進行に影響を及ぼすものではないはずだ。なのにそれすら与えないというのだから、この外道どもは極限までプレイヤーを苦しめるつもりらしい。

「もういいだろー? あとがつかえてんだから出てけ」

シッシと手を振る神威に、琴子は肩をすくめて苦笑い。それから琴子は指定された出口に向けて踵を返す。と、

「あ、そうでした」

琴子は歩みを止め、地べたに転がる血まみれの女を眺めつつ、神威に問うた。

「花子さんの本当のお名前を教えてくださいませんか?」
「そんなの今さら聞いてどうすんの?」
「別にどうもうしませんよ。最初に言ったではないですか。名前も知らない女を殺すのは寝覚めが悪いと。カムイさんは最後はハナと呼んでおられましたが、ハナが本当のお名前なのですか?」
「そそ、市川華《いちかわはな》ってのがほんとーの名前」

そうですか、と琴子は満足気に深く頷き、物言わぬ躯《むくろ》に向かって微笑みかけた。

「御機嫌よう、華さん。どうぞ安らかにお眠りください」

◆◇◆

「なるほどな」

琴子の説明を受け、壮士は少々不謹慎だと思いつつも、口元を緩ませずにいられなかった。
だって、

「つまりお前はほんの数十秒、俺が戻らないってだけで焦りまくってたってことだな?」
「む……」

神威の説明が正しいなら当然そうなる。壮士も正確なところは記憶していないが、琴子と壮士が入室するまでのタイムラグは、長くても三十秒程度じゃないだろうか。琴子はその極短い時間に焦りを募らせ、右往左往していたということになる。

「俺は愛されてるなあ」

壮士はニヤニヤと笑いつつ、いつぞやの琴子のセリフをオウム返し。
しかし残念なことに、

「わたくしは最初からお慕いしていると申しております」

恥ずかしがるどころか真顔で愛を宣言する琴子だった。

「そういうとこだと思うんだよ」
「はい?」

恥じらいが足りない。愛嬌が足りない。
臆面なく愛を告白する琴子の性格は否定しないし、壮士も心底嬉しく思っているけれど、ちょっとぐらい恥じらったりむくれたりしてほしいものだ。
もちろん琴子は良いとこのお嬢様らしく慎ましさや奥ゆかしさを備えている。ただこの子は気を許した相手にだけ、主に愛と性の方面で直球すぎる面がある。その辺りを少し改善すれば、きっと一馬にも刺さるんじゃないかと思うのだが、

「なんでもない。気にするな」
「はあ……、そうですか」

ゲームに勝ったあと少しずつ教えてあげればいい。いや、教えてやる必要すらないだろう。勝利した暁には、壮士は今の琴子を懐かしむことになるのだから。

「でもまあ、この不思議空間の仕組みはなんとなく理解したよ」

壮士もまだ完全に理解できたわけではないが、琴子が先に戻っていた理由はわかった。
琴子の話に拠ると、青のゲームの方がより早く決着がついたのは間違いない。そして魔阿が覗き見た際、赤のゲームは決着がつく直前だった。
この事実は、赤と青とで『共通する時間の連続性が存在する』証左と言える。壮士と琴子は部屋こそ違えど同じ時を過ごしていたということだろう。
そして赤での決着がついたのちに、琴子と神威は少なくない時間会話を交わしている。しかしながら、ここに戻ったのは琴子が先だった。
要するに、

「灰色に戻った瞬間にここの時間軸に強制的に戻される、って感じの理解でいいよな?」
「少々乱暴ですが、概ねその理解で問題ないかと」

琴子は話を打ち切るかのように簡素に頷いてみせ、医療キットを片付け始めた。
話を掘り下げようとしない辺り、琴子もこの件についてはさほど重要視していないのだろう。壮士としても、この空間の仕組みを詳細に紐解くことが、今後のゲームに資するとは思えなかった。

「それでお兄様。今後について一つ方針を立てたいのですが」
「参謀殿の仰せのままに」

琴子は壮士の正面で女の子座りすると、神妙な顔つきを作って言った。

「協力者を探したいと思います」

その提案――いや、命令は壮士にとってかなり意外なものであり、

「皆殺しにするんじゃなかったのか?」
「無論、神の手先は漏れなく殺します。が、現実問題として、それはほぼ不可能でしょう」
「だろうな」

青の初戦。決着に『引き分け』が存在したから、という話ではない。単純に何人・何十人いるかわからない数の人間を殺し尽くすなんて無理がある。
どれだけ装備の面で有利に立とうと、所詮は生身の人間同士の殺し合いだ。殺すことに拘ればこちらも小さくない傷を負うだろうし、殺られるリスクも跳ね上がる。事実、壮士は明ひとり殺すために大きな代償を払うことになった。

「元よりこれは陣営の勝利を目指すゲームです。また、初戦を経て個々のゲームが簡単でないことも判りました。勝つためだけでなく、命を守るためにも協力者が居るに越したことはありません」
「そうだけど、仲間みつけるのも簡単じゃないだろ。敵か味方かわかんないんだから」

そもそも論として切り分けの話があるのに加え、第三者とどういう形でコンタクトを得る機会があるのかも不明なのだ。こう言っては身も蓋もないが、手当たり次第に殺して回る方がまだ現実味があるように思う。
しかし、琴子の方針はさらに意外なものであり、

「協力者は神の陣営でも構いません」
「…………」

無言で眉をひそめた壮士に対し、琴子は噛んで含めるように言う。

「華さんの例から分かる通り、プレイヤーがゲームに参加している理由は様々です。こちらと利害が衝突しない限り、一時的にであれば、どのプレイヤーとも手を結べる可能性はあります」

ただし、と琴子は低い声で続ける。

「協力者探しの優先順位は最低位とします。また、たとえ見つけられたとしても、その者の命など羽虫程度にしか考えません。いつ何時《なんどき》、どのような局面であろうと、必要に応じて切り捨てます。私たちの身の安全が富士の山。協力者探しは日本海溝だとでも思ってください」

壮士の答えは簡潔明瞭だ。

「わかった。従う」
「ありがとうございます」
「ただ、釈迦に説法だとは思うけど、一応頼んでおく。俺の見立てを信じるな、俺の意見なんて無視しろ、俺が何をどう言おうが、そいつにどれだけ同情していようと、お前がリスクを感じたなら問答無用で殺せと命令してくれ。お前以上に大切なものはない」
「承知しました」

最後のセリフが嬉しかったのか、琴子はニコリと微笑んだあと、からかうようにこちらの瞳を覗き込んできて、

「まったく、私は本当に愛されていますね」

壮士は肩をすくめてこう答えた。

まあな、と。

◆◇◆

サファイア色の瞳を持つ少女が再び姿を現したのは、それから約二十分が過ぎた頃だった。

「お待たせしました。傷のお加減はいかがですか?」
「大したことない。いつでも行ける」

力強く立ち上がった壮士に魔阿は薄く微笑みかけ、続けて琴子に目をやり、

「円成寺様もご無事でなによりです」
「マアさんの助言があってこそです。その節はありがとうございました」
「いいえ、礼には及びません。初戦の勝利はお二人の力によるものです。創主様も大変満足されていました。今後も期待していると言伝《ことづて》るよう承っています」
「うるせえクソジジイって言っといてくれ」
「ふふ、承知しました」

壮士の暴言に魔阿は気分を害するどころか、むしろ楽しげに笑って言う。

「聞いていた通りです。壮士様は創主様への当りが厳しいですね」
「壮士様……?」

瞬間、耳聡い琴子が片眉を持ち上げつつ、壮士をジト目で睨んだ。

「ほんの少し離れていた間にずいぶんと仲良くなられたようですね」
「いや、なんだよその目は……。別に仲良くなってないし……」
「奈津だけでは飽き足らず人外にまで手を出すだなんて……。お兄様はもう少し節度を――」
「ちょっと待て」

今のセリフ、とても容認できるものではない。

「お前なに? 俺がなっちゃんに粉かけてたとでも思ってたの?」
「思ってましたが?」
「初耳だよ! 一切手え出してねえよ!」
「まあっ! 奈津を抱いておきながらなんて言い草! 見損ないました!」
「はあ!? 俺がいつなっちゃんとヤったってんだよ!」
「まだしらを切るのですか!? 奈津から聞いているのですよ!」

――実は壮君があんまりにもしつこいから、一回だけさせてあげたの。ああ、お互い同意の上だし、一応婚約者持ちだからヒミツにしてあげてね。

「知らねえよッッ!」

あの駄メイド許すまじ。

「指一本触れとらんし、裸すら見たことないわ!」
「嘘おっしゃい! わたくしの目の前で胸を揉んだではありませんか!」
「そうだった! 訂正する! 揉んだけど、あれ一回だけだ!」

ぎゃーぎゃーとじゃれ合い始めたハリボテ兄妹に、魔阿は深々と溜息を一つ。
さしもの人外である彼女も、緊張感皆無なこの二人には呆れを覚えるらしい。

「そろそろよろしいですか?」
「失礼」
「すまんすまん」

一瞬にして平常運転に戻った壮士と琴子だったが、誰が見ても殺し合いに身を投じている風には見えないだろう。
ともあれ、壮士は魔阿の背後にある青と赤の扉を交互に見て、

「また離れ離れにされるのは勘弁してもらいたいんだけどな」
「ご安心ください。次はお二人とも同じ部屋に入っていただきます」
「どちらですか?」

赤か、青かと尋ねた琴子に、魔阿は銀色のおさげを揺らせながら首を横に振った。

「今回もお二人に選択していただきます。が、その前に、説明事項がございますのでまずはお聞きください」

赤と青の扉の中央に立つ魔阿は、両腕を開き双方の扉を指し示した。

「いま申し上げました通り、二戦目はお二人同時に同じ部屋へ入っていただきます。部屋の選択権はお二人にございますが、実を申しますと、どちらを選んでいただいても大きな違いはありません。というのも、赤、青、ともにまったく同じ内容のゲームが行われます」

つまるところ、神威か魔阿か、どちらか好きな方を選べということだろうか。

「もう一点。今回のゲームは“両陣営の複数名が参加”するゲームです。そしてこれが最後となりますが、このゲームは“勝者が存在しない”ゲームとなります。以上三点を踏まえた上で部屋を選択してください」

説明を受け、先んじて口を開いたのは琴子だ。

「少し時間をいただいても?」
「はい、あまり長くは待てませんが」

琴子は顎を引くと、壮士の袖を引っ張って魔阿と距離を取った。

「参考にしたいので意見を聞かせてください」
「そう言われてもな……」

せっかく琴子が求めてくれたのだし、何かしら応えてやりたいところだが、判断材料に乏しいという他ない。
ひとまず魔阿の話をまとめるとこうなる。

・部屋の選択権は壮士らにある。
・壮士と琴子は同じ部屋に入る。
・赤、青ともにまったく同じゲームが行われる。
・そのゲームは集団戦である。
・ただし、何故か『勝者が存在しない』ゲームである。

「すまん、マアかカムイかで選ぶしかないってことぐらいしか……。あと勝者がいないってのが引っ掛かるけど、なにも思いつかない」
「そうですか……」

ゲームの内容が同じであるなら、仕切る者の違いで選ぶしかない。恐らく勝者のくだりが別の材料になるのだろうが、情報としてあやふや過ぎる。

「では、マアさんかカムイさんで選ぶとしたら?」
「マア、かなあ……」

と、答えてみたものの、壮士も自信を持って選んだわけではない。青のゲームを一度経験しているが故に、神威と比較して魔阿の人となりを多少わかっているという程度の話だ。材料としては弱い。

「お前は?」
「……悩ましいところですけど、カムイさんと言うしかないでしょうね。理由はたぶんお兄様と同じです」
「だよな」

殺し合いに同席したという経験は――、いや、殺し合いという本来あり得ない経験であるからこそ、選択するにあたって数少ない安心材料となる。琴子が悩みながらも神威としたのは理解できる話だ。
そこで会話は途切れ、琴子が黙考する時間が続いた。
やがて二分が経過した頃、琴子は静かに瞼を開き、

「わたくしが決めてもいいですか?」
「もちろん」

琴子は決断を下した。

「青にします」

クロ

クロ

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